美川憲一さんの取材をさせていただいたのはまだ暑さの残る昨年の10月。60周年を迎えていた美川さんの、シャンソンに対しての思いに焦点を当てて、巻末特集とさせていただいたのは3月号(2025年1月21日発売)です。
毎回、美川憲一さんの取材では、その飄々としたサービス精神旺盛でユニークな語り口に笑顔にさせられてしまうのですが、今回はその誠実で揺るがない情熱と芯の強さに改めて唸らされてしまいました。
現在発売中の5月号(3月21日発売)には、そんな美川さんのカバーしたシャンソン『生きる』の譜面を掲載しています。私の中では、今やバックナンバーとなってしまった3月号と、この5月号、2冊合わせて美川さんのシャンソン特集が完結した!と感じていて、既に長くなっていますが暑苦しくこの経緯を書きたいと思います
海外の楽曲を楽譜掲載(使用)するにはいくつかハードルがありまして、日本の楽曲掲載であれば、多くの作品の著作権管理を委託されているJASRAC(日本著作権協会)さんに、「この歌の楽譜を掲載させてください」と申請して、掲載し、規定の著作権使用料を支払う必要があります。そして、海外の作品については、まず著作者(作詞作曲家)から著作権の管理を任されている団体(音楽出版社など)を通じて、同じく申請をする必要があるのです。海外の著作者→現地の音楽出版社→日本の音楽出版社→利用者、という順序で許諾を受けますが、使用の方法(音楽を放送するのか、録音するのか、演奏するのか、楽譜を載せるのか、歌詞を載せるのか…)ごとに、著作権の管理方法が違う場合があります。
今回のシャンソン特集では、美川さんのシャンソン人生にとって大切な楽曲をピックアップいたしました。その中でも重要なな作品、と感じていた曲が、5月号に掲載されている『生きる』です。楽曲は何度もCD化されているし、JASRACはフランスの著作権団体SACCAMと包括契約を結んでおり、『生きる』はその管理曲でした。「これなら許諾はすぐに取れそうだ」と安心したのですが、残念ながら、楽譜使用の分野に関しては、SACCAMの契約外だったのでした。つまり、直接管理する音楽出版社に個別に許諾を取る必要があったのです。
まず管理出版社を調べ、メールし、内容を伝え、契約して、著作者に許諾を得て、そこから掲載…という段階を踏んだのですが、月刊誌なので〆切があり、どうしても3月号には間に合いませんでした。そこからやりとりはさらに1ヶ月ほどかかり、やっと5月号に掲載することが出来たのです。
なので、ぜひ皆さまに、3月号と5月号を合わせて、美川さんのシャンソン愛に触れていただければうれしいです。世界的なヒットとなった、軽やかだけど深みのあるよい歌なのです。それをいかに美川さんが自分自身の歌として唄い続けているか。記事にも書きましたが、美川さん自身、この歌の許諾を得るために、フランスまで関係者が行き、著作者ご本人から許諾を得ています。
美川さんの「しぶとく生きるのよ〜」の軽やかでしなやかな一言の後ろに、弛まない地道な「しぶとさ」が積み重なっている…。今回私も美川さんを見習って、諦めずにしぶとく許諾を取り、美川さんのそんな積み重ねの一片を覗いた気がしました。
(歌の手帖Y)