りんともシスターズ


 某所にて、りんともシスターズのお二人にお会いする機会が幸運にもございましたので、改めて新曲『カリビアン・サンバ』をご紹介しましょう。


 あの松平健プロデュース、マジー真島さんの参加(もちろん振付も)で制作されたダンサブルな歌謡曲。明るく楽しい曲なのは事実ですが、ただそれだけで評価するのは不当だと私は思っております。

 明らかに80年代、ボーイズ・タウン・ギャング『君の瞳に恋してる』、マイケル・フォーチュナティ『ギブ・ミー・アップ』、ワム!『クラブ・トロピカーナ』…等など辺りと同じモチベーションで作られた曲想。したがってリアル・タイム世代にとっては、この曲の明るさ、楽しさは今の自分自身の半径1メートル以内にあるものではなく、卒業アルバムや昔の写真のように、記憶と忘却の向こう側で華やぎ、輝いているもの。過ぎ去りし日々への郷愁、寂寥を伴う感覚と言うべきものなのではないでしょうか。

 お二人(いつもじゃないけどマジーさんも入れると三人)がステージで華やかに唄い、踊る姿を見ていると、イェーッとばかりに一緒に楽しくノッているうち、気が付くと懐かしさに胸がつまり、目頭を熱くしている自分に気付きます。

 そして何より重要なことは、この楽しさも物哀しさも、現役アーティストによる、今現在の作品であり芸である、という事実。

 りんともシスターズは、歌謡デュオとしてのキャリアはまだ10年かそこらですが、姉・りんさんは女優として、妹・ともさんはアイドル歌手として、10代、20代の頃からこの世界で生きてきた、筋金入りのプロフェッショナルです。
 若き日を回顧するためだけの道具なら、当時の音源やDVDを買えばいい。りんともシスターズのお二人は10年間途切れることなく音源や映像をリリースし続け、今この瞬間にも各地を回ってステージに立ち、昭和歌謡を生身のアーティストによる現代の芸、血の通った音楽として生かし続けています。

 卒業写真やセピア色の家族写真のように哀しいけれど、しかし写真と違って生きて目の前で躍動しているものなのです。

 その技量と現役感を維持するために、お二人が日頃からどんな努力をしておられるか、考えただけで畏敬の念を覚えます。

 更に具体的なことを言わせていただくと、今までのシスターズは、ザ・ピーナッツに私淑していることもあり、ユニゾンに重きを置いて歌手活動をしておられました。

 二人の間にリード・ヴォーカルとバックアップという区別はなく、シングル曲にしても頭からユニゾンという場合が多かったという印象があります。

 それが新曲『カリビアン・サンバ』では、二人が交代でリード・ヴォーカルを取っています。実のお母さますら間違えるくらい声の似た二人。どちらがどちらと言い当てる自信は私にもありませんが、とにかく新曲では二人個々の個性をはっきりと出しているのが、バップ期やテイチク期の、今までのシングル曲との大きな違いです。これはお二人のヴォーカリストとしての成長と自信をはっきりと前に出したものと考えていいでしょう。少なくとも、お二人自身にその自覚はなくとも、制作陣はそう考えたに違いありません。

 付け足しのようで恐縮ですが、踊りと振付はもちろんのこと、マジーさんのボーカルや合いの手が、また良いのです。妙な表現に思えるかもしれませんが、“青春”を感じさせる声なのです。これも理由は前述の通りです。

 思いのほか、暑苦しい文面となってしまいましたがどうぞご容赦ください。

 『カリビアン・サンバ』は昨今復活の兆しを見せているディスコ歌謡の中でも出色の出来ばえです。小誌歌の手帖では1月号にて譜面を、2月号では昨年11月、六本木で行われた発売記念イベントの模様を掲載しております。是非いまいちどご覧いただければ幸甚です。

(高村)

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