レーモンド松屋さんのライブを観てきました。どんな編成かと思ったら、ご自身と、ギターにアレンジャーでもある伊平友樹先生を、マニピュレーターに平野澄人さんを迎えたトリオでした。
マニピュレーターってのは読者の皆さんには聞きなれない名称かもしれませんが、機材を操作する人のことで、本来は技術用語なのでしょうかね。音楽の世界では、電子音楽の分野で活躍するパートを指します。シーケンサー(自動演奏機)やサンプラー(録音機材の一種)、コンピューターなどを操作して音楽を「演奏」する人たちです。
つまり平野さんの流すオケに合わせて、レーモンドさんや伊平先生が唄い、ギターを弾く訳です。
本誌でもよく丹羽先生が怒ってらっしゃいますが、カラオケを使うステージってのは、言わば「仕方なくやるもの」という認識が、少なからずあるでしょう。演歌歌手だって本来伴奏は生演奏で演るべきなんだけど、スケジュールや予算の関係で、本人歌唱以外はカラオケで済ます、という感じで。
ところが昨日のレーモンドさんのライブはちょっと違った。本人によれば「シングルやアルバムを制作して、せっかくいい音が出来たんだから、これをステージで皆さんにお聞かせしなきゃ勿体ない」ってんです。と言って全部カラオケ任せでは、つまりスタジオ音源と全く同じじゃライブの意味がないから、ボーカルだけじゃなくギターも自分たちで弾くわけです。だからイントロのド頭とかは別にして、ギターパートを全部抜いたオケ音源をステージ用に作るわけです。
何もレーモンドさんが初めてって訳じゃなくて、以前は藤原浩さんが樋口義高先生と、同じ発想のステージをやってましたが、何しても、これは新しい、考え方として一理あるなと思いましたね。
昨今、映画のせいで人気再燃のイギリスのロック・バンド、クイーン。高校生の頃、武道館に彼らの来日公演を観に行った同級生に「どうだった?」って訊いたことがありました。
あの『ボヘミアン・ラプソディ』は、さすがにメンバー4人だけでは、ステージでは再現できません。では、あの第九みたいな大合唱団パートだけテープを使ってメンバーが唄うのかと思ったら、あそこはもう全部レコードと同じ音源を流してメンバーは引っ込んじゃう、つまりステージの転換とメンバーの衣装替えに使っていたのでした。
「それじゃつまんないじゃん」と当時の私は言ったものです。すると友人の答えはこうでした。
「でも武道館のあの巨大PAで聴く『ボヘミアン…』は凄かったよ。レコードと同じ音なんだけど、家で聴くのとは比べもんにならない迫力だったよ」
そんなレーモンドさんが使ったギター群。左端の青いのがベンチャーズや寺内タケシさんで有名なモズライト。その右の白いのがフェンダー・ストラトキャスターでレーモンドさんの愛機。その後ろはフェンダー・ジャズマスターでこれもレーモンドさんのだそうですが、取材当日は使いませんでした。右端の青いのが伊平先生の同じくフェンダー・ストラトキャスター。
米フェンダー社は、自社製品の色に独自の名称を付けます。レーモンドさんのギターの白は「オリンピック・ホワイト」、伊平先生の青は「ソニック・ブルー」とか「レイクプラシッド・ブルー」とか云います。赤だと「キャンディアップル・レッド」とか。
昔、マンガで「アマンド・ピンク」とか「ポリバケツ・ブルー」とかあったらしいですね。
(高村)
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