真田ナオキの「核音」

 皆さんお元気ですか。

弊社では9月売り11月号の編集作業が佳境に入りつつあります。

 譜面欄「歌の市」の楽譜を作っていて、初めて真田ナオキの新曲を聴き、「こいつは今までの歌謡曲歌手とは違う」と感じました。

何が違うのか。唄いまわしが違う、歌心が違う…色々な表現が浮かんだのですが、もっと具体的に解明できないか、何度も聴いて考えてみました。

 件の新曲、ある大物歌手の作曲作品なんですが、タイトルにある通り、ボーカルにブルースを感じます。何故ブルースに聴こえるのか、おそらくこれは「核音」の感覚をナオキ君は持っているからなのだろうと思います。

 「核音」はフレーズの中で中核をなす音のことで、昔ジャズピアニストの山下洋輔さんがブルースの研究書を著した時にも、重要な概念として言及しておられました。

 譜例はキー・Fマイナーの曲を想定したサンプルです。「核音」は、和声でいう所の「主音」や「ルート」とは違い、絶対座標で「この曲はこの音」と決まるものではなく、フレーズ単位で役割として流動的に変化していきます。

 譜例ですと星印が付いた音が「核音」と言っていいと思いますが、やや乱暴ですが「フレーズの中の目的地」という例えはどうでしょう。

この「核音」を捉えることの出来る奏者は、動きの多いフレーズ、パッセージを唄うあるいは演奏しても、安定感と流動性の両方を持つ旋律を構成することができます。

 よく言う「音程がよい」というのは実はこういうことで、単に譜面のすべての音を正確にヒット出来ることだけでなく、あるフレーズやパッセージの中で核となる音がどれなのかを常に知っていることが重要なのでしょう。

 ナオキ君がどうしてこういう感覚を身に着けているのかは分かりませんが、核音の感覚は選ばれた天才だけのものだとか、絶対音感みたいに、幼児期に専門的なレッスンを受けないと身につかないものだとか、そういう種類のものではないと思います。

 おそらく色んな音楽、とくに洋楽や、あるいは逆に日本の民謡とか、洋楽の影響を極力排した「本物の演歌」とかを聴き込んだのではないかと想像します。

 詳細は新譜と、小誌11月号をお楽しみに。ナオキ君の生のステージを聴いてみたいです。

(高村)

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