彼は語る

「徳永さんご無沙汰しております。この度はJR横須賀線の新車両導入、おめでとうございます」

「ありがとうございます。って何で徳永がありがとう(笑)」

「しかしその新しい車両ですが、山手線の一番新しいあの車両と同じデザインなんですね。あれはどうも無表情といいますか…それとも鉄道オーソリティの目から見ると美しいのでしょうか」

「徳永はアリだと思います。確かに少々違和感のある顔かもしれません。でも写真で見るのと、実際に線路の上を走っているのを見るのとでは違うのですよ」

「なあるほど、人を外見で判断しちゃあイカんということですな。お見合い写真ではいまいち好みじゃなくても、実際に額に汗して働いている姿を見れば…」

「その通り。山手線は、常に最新の技術が投入される路線なのです。ためにしばしば皆さん“前の方がよかった”とおっしゃいがちですが、山手線で培われた新技術が、やがて総武線に、武蔵野線に、そして海外へと受け継がれてゆくのです」

「横須賀線の話がなぜか山手線擁護論になっていますなぁ…どうも怪しい。あなた誰かをかばっているのではありませんか。そもそも徳永さんにとって、横須賀線という路線が占める立ち位置は?」

「それはその、京急との競合がありますから…」

「おお、そうか! 親方日の丸のJR横須賀線に対峙し、一介の民間企業に過ぎない京急が孤軍奮闘する姿は、ポップス全盛の音楽界において我が道をゆく演歌歌手の姿に重なる、と…」

「よくぞ言ってくださいました」

(一部脚色がございます)

▲若き日の村田先生をすら思わせる風貌。すでに大物の片鱗が

(髙村)

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